不動産投資の基礎

不動産を相続したくない時は相続放棄と売却どちらを選ぶべき?

2022年5月29日

ここでは、投資用不動産の相続放棄に関連して詳しく解説しています。

被相続品が投資用不動産を保有し、その不動産を相続した場合、入居者がいれば月々家賃が入ります。
しかし、実際に投資用不動産を相続する場合には様々な懸念点が想定されることから、「相続したくない」と考える方も少なくありません。

投資用不動産を相続して運用すべきか、または相続して売却すべきか、あるいは相続放棄すべきか。個別の事情に応じ、相続人同士で十分に協議することが必要です。

投資用不動産の相続における相続人の選択肢

投資用不動産のオーナーが亡くなった場合、相続人が取りうる対応には主に3種類があります。1つ目が「相続して運用する」、2つ目が「相続してすぐ売却する」、3つ目が「相続放棄する」。それぞれの概要を見てみましょう。

相続して運用する

1つ目の選択肢は、投資用不動産を相続して運用する方法です。
例えば投資用マンションを相続した場合には、引き続き入居者の募集や定着を図り、家賃収入の獲得を目指します。土地を相続した場合には、賃貸住宅や駐車場などを築造し運用しても良いでしょう。
もし相続した不動産から収益を獲得できる可能性があるならば、相続後の手間も考慮しつつ、積極的に運用を検討してみても良いでしょう。

相続してすぐ売却する

2つ目の選択肢は、投資用不動産を相続した後に売却する方法です。
この方法のポイントは、相続後の所有期間をなるべく短くし、維持費などの出費を抑えるところにあります。
不動産の買主が見つかりにくい場合には、不動産会社が買主となる「買取」という方法も選択可能です。
「買取」の場合、一般市場からの売却に比べて低価格になる傾向がありますが、一般市場から買主を探す必要がなく、買取業者が見つかればすぐに不動産を現金化できるというメリットがあります。

相続放棄する

3つ目の選択肢は、相続を放棄する方法です。
相続することによるデメリットが大きい場合には、家庭裁判所で所定の手続きをして相続を放棄できます。

ただし、相続放棄の手続きをすると、投資用不動産だけではなくすべての財産の相続を放棄することになります。
例えば、被相続人が抱えていた不動産投資ローンの相続を放棄できる一方、多額の「タンス預金」があっても同時に放棄することに。そのため、全体的な収支を考慮した検討が必要です。

なお、被相続人が生前に団信(団体信用生命保険)に加入していた場合、被相続人の死亡に伴い不動産投資ローンの残債は消滅します。不動産投資ローンを組む多くの方は、団信に加入していますので、あわせて確認しましょう。

相続放棄の可能性がある方は「法定単純承認」に要注意

相続放棄をする場合には、「自分への相続の開始があることを知った時から3か月以内」に相続放棄の申立てて手続きをする必要があります。
相続の開始があることを知った日から3か月までに相続放棄の申立て手続きをしないと、「法定単純承認」が適用され、自動的に不動産を相続したとみなされる点にご注意ください。

投資用不動産を相続放棄するメリット・デメリット

メリットは税金の出費を抑えられること

投資用不動産を相続放棄するメリットとして、固定資産税や都市計画税などの税金がかからなくなる点があります。
相続後に「そろそろ売りたい」という時期がやってきても、高額な不動産であることから、すぐに売れるとは限りません。場合によっては長期間売れず、その間、利用していない不動産の税金を払い続けなければならないケースもあります。
これらの税金を払わないことは、不動産を相続放棄する主なメリットとなるでしょう。

デメリットは他の相続もすべて放棄されること

デメリットは、その不動産だけに絞った相続放棄はできない点です。
相続放棄の手続きをすると、すべての財産の相続を放棄したとみなされます。そのため、多額の現金や有価証券などが残されている場合には、相続放棄をすることでその現金や有価証券も放棄することになります。

不動産だけではなく、財産の全体的なバランスを考えて相続放棄を検討する必要があるでしょう。

投資用不動産を相続放棄する際の注意点

相続人全員が相続放棄しても不動産の管理義務は残る

相続人全員が投資用不動産の相続を放棄した場合、その不動産は相続財産管理人が売却処分を行いますが、相続財産管理人の選任までは相続を放棄した人に財産の管理義務があります。
相続放棄すると相続財産管理人の選任が必要となり、相続人が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、これに応じて相続財産管理肉が選任され、何かしらの処分が決定するまで管理を代行してもらいます。
相続持参管理人の選任の申し立てには、弁護士等が選任された場合には月に1~5万円程の報酬を支払う必要があります。また、相続財産管理人の選任には、10~100万円程の予納金が必要となります。

管理義務が残っている間は、物件周辺の方々に迷惑をかけないよう、適切なメンテナンスが必要です。
もし管理義務の期間中に建物倒壊などで周辺に損害を与えた場合、相続放棄した者に損害賠償を請求される可能性がある点に注意しましょう。

相続人全員が不動産の相続放棄をすると借金はどうなる?

被相続人が多額の借金を抱えている状態で相続人全員が相続放棄した場合、原則として相続債権者の債権は消滅します。
ただし、相続人が相続財産管理人の選任を裁判所へ申し立てれば、被相続人の財産の中からプラスになる部分を処分し、この処分代を相続債権者に分配できます。

相続財産管理人の申し立てには費用がかかることから、必ずしも相続人は裁判所へ選任を申し立てるとは限りません。
また、相続財産管理人が選任されたとしても、被相続人にプラスとなる財産が残されているとも限らないことから、相続財産管理人が選任されないケースもあります。

一部屋を共有で相続して運用するのは難しい

被相続人が一部屋のみの区分マンションを保有していて、これを複数の相続人で共有名義で相続する場合、役割分担や支出分担を明確にするなどの慎重な協議が必要です。

投資用マンションを保有する以上、固定資産税が掛かります。また、入居者から家賃を回収したり修繕したり、空室となった際には新たな入居者を探したりなど、様々な手間や支出が発生します。
これらの手間や支出を共有名義の相続人が全員で平等に分け合うことは難しく、やがて共有名義人同士のトラブルに発展しかねません。

投資用不動産を相続する流れ

投資用不動産を相続放棄しない場合には、通常の流れに沿って相続手続きを行います。投資用不動産を相続する流れを簡単に確認しておきましょう。

1.相続する人を決める

誰が投資用不動産を相続するかを決めます。

遺言が残されていれば、基本的にはその内容の通りです。
遺言が残されていない場合には、相続順位を基準とした法定相続分にしたがって分割して相続するか、または遺産分割協議によって相続人を確定させます。

2.管理会社と契約している場合は連絡する

投資用不動産の管理を管理会社に委託している場合、相続人が決まった時点で管理会社へ連絡し、相続手続きが始まっていることを伝えます。

3.ローンの残債が残っている場合には金融機関に連絡する

アパートローンなどの残債が残っていれば、融資を受けた金融機関へ連絡します。

被相続人が団信(団体信用生命保険)に加入していれば、保険金から残債が支払われるために借金はなくなります。
もし団信に加入していなければ、相続人が残債を引き継ぐ形となります。

4.投資用不動産の名義を変更する

被相続人から相続人へ投資用不動産の名義を変更します。
名義変更は相続人だけでもできますが、内容が煩雑なため、一般的には司法書士等の士業に手続きを依頼します。

5.準確定申告をする

被相続人が年の途中で死亡した場合、1月1日から死亡した日までの所得金額や税額を計算し、相続人全員の連署と押印により確定申告を行います。この手続きを「準確定申告」と言います。
相続の事実を知った日の翌日から4か月以内に、申告と納税をしなければなりません。

6.相続税を納税する

投資用不動産を含め、相続した財産が一定金額を超えた場合には、相続税を計算して納税します。

相続放棄の流れと必要な書類

投資用不動産を相続放棄する流れ、および相続放棄の手続きに必要な書類について確認しましょう。

相続放棄の流れ

1.相続放棄の手続きに必要な書類を揃える

相続放棄の手続きに必要な書類を準備します。
申立人が20歳以上かどうか、申立人が被相続人の配偶者かどうか、申立人が被相続人の子供・孫かどうか等々、いくつかの条件に応じて別途で書類が必要となる場合もあります。

2.被相続人の財産調査を行う

投資用不動産、預貯金、有価証券など、被相続人が所有する相続財産の調査を行います。プラスの財産だけではなく、不動産投資ローンの残債などのマイナスの財産も対象です。

すべての財産を相殺してマイナスとなった場合、一般的には相続放棄が選択されます。

3.家庭裁判所に相続放棄を申し立てる

被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所に赴き、必要書類を提出の上、相続放棄を申し立てます。
相続放棄の申し立ては放棄する本人が行いますが、相続人が未成年の場合や遠方に住んでいる場合には、代理人が相続放棄の申し立てを行うことも可能です。
なお、相続放棄の申し立ては、「被相続人が亡くなった日、または相続が発生したことを知ってから3か月以内に行う」という原則があります。

4.相続放棄を申し立てた相続人に照会書が届く

相続放棄の申し立てに応じ、家庭裁判所から申立人に対して照会書が送付されます。
照会書とは、被相続人の死亡を知った日や相続放棄の意思・理由、遺産を処分していないか等を確認するための書類です。照会書に必要事項を記入のうえ、家庭裁判所へ返送します。
照会書の回答によっては、家庭裁判所から相続放棄を却下されることもあります。一度却下されると、再び相続放棄を申し込むことはできません。

5.相続放棄を申し立てた相続人に相続放棄申述受理通知書が届く

返送した照会書が家庭裁判所で受理されると、申立人に対して「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。
この書類が送付されたことで、申立人は相続放棄の手続きが完了したことを確認します。

相続放棄に必要な書類

相続放棄に必要となる主な書類は、大きく分けて次の4点です。

  1. 相続放棄申述書
  2. 被相続人の住民票除票・または戸籍附票
  3. 被相続人の戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本)
  4. 相続放棄を申し立てる本人の戸籍謄本

それぞれ詳しく確認してみましょう。

1.相続放棄申述書

相続放棄申述書とは、相続放棄をするために家庭裁判所へ提出する書類です。
相続放棄の申立人の氏名・住所、相続の発生を知った日付、相続放棄の理由、相続財産の内容などを記載します。
記載する相続財産の内訳は、投資用不動産だけではなく、被相続人に帰属するすべての財産(借金などのマイナス資産も含む)が含まれます。

2.被相続人の住民票除票(または戸籍附票)

被相続人の住民表除票とは、転出や死亡により住民登録が抹消された住民票のことです。また戸籍の附票とは、本籍地の市区町村が戸籍謄本と一緒に保管している書類で、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が書かれている書類です。
被相続人が死亡するまでの間に複数の市区町村で住民登録していた場合、住民票除票に代わって戸籍附票を用意するのが一般的です。戸籍附票は、被相続人の本籍地がある市区町村で取得します。

3.被相続人の戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本)

法定相続人を確認するため、被相続人の戸籍謄本も用意する必要があります。戸籍謄本には、被相続人の両親、兄弟姉妹、配偶者、子供、死亡日など、相続や相続放棄の基礎となる情報が記載されています。

なお、戸籍謄本だけで被相続人の戸籍を正確に追えない場合には、除籍謄本や改製原戸籍謄本が必要となる場合もあります。

4.相続放棄を申し立てる本人の戸籍謄本

相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本も用意します。
その他、相続人が配偶者の場合、子またはその代襲者の場合、父母・祖父母の場合、兄弟およびその代襲者の場合等は、相続人により準備する書類も違うので事前に確認が必要です。

不動産を相続してデメリットになり得る場合

親から不動産を相続した場合、メリットになる要素もある一方で、デメリットになりうる要素もあります。

メリットについては簡単に想像できると思いますので、ここでは、あえてデメリットについて詳しく解説します。投資用不動産だけではなく、住宅用不動産を相続する際のデメリットも含めてご紹介します。

すべての相続人で平等に相続することが難しい

1つの不動産を複数の相続人で平等に相続することは困難です。
共有名義で相続する方法もありますが、維持・管理の手間や費用などの面で、のちのちトラブルになる恐れがあります。

現実的な手段として、1人の相続人が不動産を継承し、他の相続人には現金等を分配する形にすることもあります。しかし、不動産を相続した相続人に現金がなければ実現しない方法です。
不動産を含めた相続を円満に解決させるためには、弁護士等の専門家をはさんだ協議が必要になることもあります。

固定資産税と都市計画税を負担することになる

投資用であれ住居用であれ、不動産を相続すれば固定資産税や都市計画税を負担することになります。
不動産の評価額にもよりますが、決して固定資産税の額は安くありません。住居用不動産で、かつ誰も住む予定のない物件を相続した場合、単に負担が増えるだけの状態になります。

相続税がかかる可能性もある

不動産を含め、相続財産全体の評価額が一定額を超える場合、相続税が課されることになります。

相続税が課されるかどうかの基準は、「基礎控除3000万円+600万円×法定相続人の数」です(令和5年4月4日現在)。この計算式で算出される金額を超えて相続した場合には、確定申告のうえ相続税を納税しなければなりません。
一例として、法定相続人が「配偶者1名+子供1名=計2名」の場合、課税遺産総額が次の金額を超えると相続税が発生します。

基礎控除3000万円+600万円×2名=4200万円

仮に不動産の評価額が3600万円で、不動産以外の相続財産が600万円超の場合には相続税が課されます。
なお、相続税は預貯金(現金)で払う必要があります。そのため、もし相続財産が不動産のみで預貯金がほとんどない場合には、相続人が別途で相続税を工面しなければなりません。

不動産を維持・管理する手間・時間・費用がかかる

不動産を維持・管理するためには、相応の手間や時間、費用がかかります。
相続人がその不動産に住む予定がない場合、単純に手間・時間・費用が増えるだけとなってしまいます。

ちなみに維持・管理に必要な費用は、上述の固定資産税や都市計画税のほか、水道光熱費、壁・屋根・屋内の修繕費などび定期的なメンテナンス代などです。水道・ガス・電気代は、たとえ使用していなくても基本料金がかかります。

将来的に物件を取り壊す際、解体費用がかかる

住んでいない物件の維持・管理費用を節約するため、物件を取り壊して更地にする方もいます。
空き家になることを避ける手段としても、物件の取り壊しは1つの方法ですが、取り壊す際の解体費用は意外に高額です。

例えば木造一戸建てを取り壊す場合、解体費用の相場は坪3~5万円となります。
注文住宅の平均的な坪数は38坪と言われていますが、仮に38坪の木造一戸建てを取り壊す場合、解体費用は合計114万~190万円。別途で工事費用、処分代、重機回送費、リサイクル代、保安費などもかかります。ちなみに物件が35坪の軽量鉄骨造だった場合には、220万~270万円が費用相場です。
ほかにも、アスベストの調査や処分にかかる費用、地中障害物が出た場合の費用、ブロック・フェンスの撤去等の費用などもかかる場合があります。

なた、解体費用が高額という理由等で物件を長期間放置していると、空き家化のリスクにとつながる恐れがあります。

空き家になってしまうリスクがある

相続人が住むわけでもなく、また誰かに賃貸するわけでもない物件を長期間放置すれば、やがて空き家になってしまうでしょう。
空き家から想定される問題は以下のように多くあり、2023年現在、全国各地で増えつつある空き家は社会問題化しています。

  • 老朽化による倒壊のリスク
  • 放火・事件・事故などに対する周辺住民の懸念
  • 周辺地域の治安の悪化
  • 野生動物の出入り
  • 病原菌や虫の温床化
  • 雑草問題 など

空き家としての状態が長く続き、近隣住民から自治体へのクレームが増えてくると、自治体は物件を「特定空き家」に指定するかもしれません。
「特定空き家」に指定されると、自治体から相続人に対して改善が勧告され、勧告に応じない場合は固定資産税の減免措置が外される恐れもあります。