不動産投資の基礎

親の不動産投資の物件は相続を拒否できる?手続きの方法は?

2022年5月29日

ここでは、投資用不動産の相続放棄に関連して詳しく解説しています。
相続放棄のメリット・デメリットを踏まえ、投資用不動産の相続放棄に関連して理解しておきたい事項を見ていきましょう。

投資用不動産を相続放棄するメリット

ローンの返済も放棄できる

被相続人がアパートローンなどを抱えていた場合、相続放棄をすることでローンの返済も放棄できます。アパートローンだけではなく、その他のあらゆる借金もすべて放棄可能です。
プラスの資産よりマイナスの資産のほうが大きい場合には、相続放棄することが相続人の大きなメリットになるでしょう。
ただし、もしプラスの遺産を売却・消費したり隠したりした場合には、単純承諾とみなされて相続放棄できなくなります。

物件の維持・管理の手間やコストがかからない

投資用不動産を維持・管理する手間やコストがかからなくなる点も、相続放棄するメリットになるでしょう。
投資用不動産を所有していると、定期的なメンテナンスや必要に応じた修繕、固定資産税・都市計画税の支払いなどの手間とコストがかかります。相続放棄することで、これらの負担がなくなります。

投資用不動産を相続放棄するデメリット

プラスの財産もまとめて放棄しなければならない

相続放棄をすると、被相続人のすべての財産を放棄しなければなりません。投資用不動産だけを切り離して相続放棄できないため、預貯金や有価証券などのプラスの資産もすべて放棄することとなります。
相続放棄する際には、プラスとマイナスを慎重に比較し、本当に相続放棄すべきかどうかをよく検討したほうが良いでしょう。

相続人が得た利益を分けてもらえない

例えば自分が相続放棄をして別の相続人が投資用不動産を相続した場合、その相続人が投資用不動産を売却して利益が出たとしても、相続放棄をしている人は利益を分けてもらえません。
相続財産が思わぬ高額で処分できた際、相続放棄したことを後悔する可能性があります。

相続放棄の手続きの流れと必要な書類

相続放棄の手続きの流れと、相続放棄の手続きに必要な書類を確認してみましょう。

相続放棄の手続きの流れ

1.相続放棄に必要な書類の準備

まずは相続放棄に必要な書類の準備からです。
基本的な書類は決まっていますが、被相続人や相続人の状況により別途で書類を揃えなければならないこともあります。

2.相続の対象となる財産の調査

相続の対象となる被相続人の財産を詳しく調査します。
プラスの資産だけではなく、マイナスの資産(アパートローン、その他の借金など)も調査しておく必要があります。

3.相続放棄の申し立て

必要な書類を持参し、家庭裁判所へ相続放棄の申し立てを行います。
相続放棄の申し立ての期限は、「自分への相続の開始があったことを知った日から3か月以内」です。

4.照会書の確認

相続放棄の申し立てを受けた家庭裁判所から、相続放棄を申し立てた人に対して照会書が届きます。
照会書とは、相続放棄の意思を再確認するための書類です。照会書の中にある回答書に必要事項を記入のうえ、家庭裁判所へ返送します。

5.相続放棄の完了

家庭裁判所で相続放棄の申し立てが受理されると、相続放棄を申し立てた人に相続放棄申述受理通知書が届きます。
これにより、相続放棄の手続きが完了します。

相続放棄に必要な書類

相続放棄の手続きに必要な書類を確認してみましょう。

1.相続放棄申述書

相続放棄の申し立てを行うため家庭裁判所に提出する書類です。
申し立てる人の氏名や住所、相続の発生を知った日付、相続財産の内容、相続放棄する理由などを記載します。

2.被相続人の住民票除票(戸籍附票)

被相続人がかつで住んでいたことの証明、あるいはその方が死亡していることを証明する書類です。
被相続人が死亡するまでに複数の市町村で住民登録していた場合には、住民票除票に代わって戸籍附票を用意することもあります。

3.被相続人の戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本)

法定相続人を確認する目的で、被相続人の戸籍謄本も用意します。
戸籍謄本のみで被相続人の戸籍を追えない場合には、除籍謄本や改製原戸籍謄本を用意します。

4.相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本

相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本も用意します。
被相続人との戸籍関係に応じ、家庭裁判所の判断で提出を免除されることもあります。

ローンが残っている投資用物件を相続する際の注意点

直接不動産を相続していなくても、ローンの返済義務が生じる場合があります。

仮に、被相続人の配偶者が投資用物件ローンを相続し、その子供が預貯金を相続したとします。
その後、もし投資用物件の経営がうまくいかずローンの返済が難しくなった場合、預貯金を相続した子供には、法定相続分の範囲内でローンの返済義務が生じるのです。

上記の例で、子供の立場としては「自分は投資用物件を相続しなかったから、ローンの支払い義務はない」と思いたいところです。しかし、実務的には子供も法定相続分についてローンを支払わなければなりません。
このルールがなければ、はじめから支払い能力のない相続人にローンを相続させることができてしまいます。銀行が思わぬ損失を被らないようにするためのルールです。

相続した土地を国に返還できる「相続土地国庫帰属法」

土地や土地付きの建物を相続したものの、「利用する予定がない」「管理ができなくなった」等の理由で相続人に固定資産税や維持費のみがかかる状況となり、その土地を手放したい場合には、国へ土地を引き渡すことができます。
相続土地国庫帰属法という法律で認められた手続きで、一定の要件を満たすことを条件に適用されます。

相続土地国庫帰属法の概要、および国に引き取ってもらうための費用について確認してみましょう。

相続土地国庫帰属法の概要

相続土地国庫帰属法の成立は2021年4月28日で、施行は2023年4月27日からです。
国の引き取り対象となる不動産は土地のみで、建物は対象になりません。同法の施行前に相続した土地も対象となります。

また、「相続・遺贈」によって所有することとなった土地のみが対象なので、自分で購入した土地は対象になりません。
国に引き渡すための申請を行える人は、その土地の相続人となります。

土地を国に引き取ってもらうための費用

相続土地国庫帰属法に基づいて国に土地を引き取ってもらうためには、いくつかの費用がかかります。主な費用を確認しておきましょう。

審査手数料

1筆の土地につき、14,000円の審査手数料がかかります。
なお、以下のような土地は、審査の段階で直ちに却下となります。

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 特定有害物質により土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地・所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地

負担金

引き取り料として国に負担金を支払わなければなりません。
負担金の計算式は土地の種類によって異なりますが、例えば直ちに建物の敷地として使用できる土地の場合には、原則として面積に関わらず1筆ごとに20万円が基本となります。
ただし、都市計画法の市街化区域などについては、面積に応じた別途計算式が用意されています。

土地の境界確定にかかる費用

相続土地国庫帰属法では、境界線が不明瞭な土地は引き取り対象になりません。もし境界線が不明瞭な場合には、境界確定のための調査費用がかかります。

境界確定にかかる費用は土地の面積や数などによって変わりますが、多くの土地家屋調査士は「30万円~」としているようです。
測量が難しい土地で、かつ広大な面積を持つ土地の場合、調査費用が100万円を超えることも珍しくありません。

建物の解体費用

相続土地国庫帰属法が引き取りの対象としているのは土地のみ。そのため、もし建物がある土地を相続した場合には、建物を解体した上で引き取りを申請する必要があります。
解体費用の相場は、木造建築物で1㎡あたり2万円~。鉄骨系建築物は1㎡あたり5万円~となります(金額は物件の状況、場所、立地、施工業者、解体方法、調査費用等により変動します)。

相続人全員が相続放棄したら相続財産管理人を選任する必要がある

もし相続人全員が投資用不動産の相続放棄した場合でも、相続した方々には、その投資用不動産の「次の管理者」が設定されるまで、その物件を管理する義務が生じます。
「次の管理者」が設定されるまでの間にメンテナンスなどが必要であれば、相続放棄した方々が負担しなければなりません。
「次の管理者」とは「相続財産管理人」のことです。相続放棄した方々が家庭裁判所に申し立てることで、相続財産管理人が選任されます。
なお、相続財産管理人の選任には、申し立て費用として数十万円がかかります。

投資用不動産の相続放棄に関する基礎知識

投資用不動産の相続放棄に関連し、よく目にする基本的な用語を確認しておきましょう。

限定承認による相続とは?

限定承認による相続とは、相続人が相続財産から被相続人のマイナスの財産を清算して、余った財産を引き継ぐという方法です。引き継いだ財産は譲渡所得とみなされ、課税対象になります。

限定承認の申し立ては、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で行います。相続人全員が共同で申述する必要があります。
相続放棄に比べて手続きが煩雑なので、一般には専門家に手続きを依頼する形となります。

相続順位と代襲相続

被相続人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の近親者は、以下の相続順位に基づいて相続人となります。

  • 第1順位…被相続人の子供
  • 第2順位…被相続人の直系尊属(父母・祖父母など) ※1
  • 第3順位…被相続人の兄弟姉妹 ※2

※1 父母も祖父母もいるときは父母。第2順位は第1順位がいないときに相続人となります。
※2 第3順位は、第1順位・第2順位がいないときに相続人となります。

すでに第1位順位の「被相続人の子供」が死亡している場合(子供が先立った場合)、代わりに「被相続人の子供」の子供や孫が第1順位の相続人となります。この代わりとなる相続人のことを、代襲相続人と言います。
第2順位、第3順位の相続人が亡くなっている場合にも、その子供や孫などが代襲相続人となります。

法定相続分

被相続人の財産を相続するにあたり、相続人それぞれの相続分として法律で定められた割合を法定相続分と言います。
法定相続分は、相続人の人数や相続順位等により個別で異なります。相続人の構成別で、法定相続分の例を見てみましょう。

  • 配偶者と子供1人の場合…配偶者が1/2で子供が1/2
  • 配偶者と子供2人の場合…配偶者が1/2で子供が1/4ずつ
  • 配偶者と直系尊属1名の場合…配偶者が2/3で直系尊属が1/3
  • 配偶者と兄弟姉妹1名の場合…配偶者が3/4で兄弟姉妹が1/4

「法定単純承認」に要注意

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、まず相続人は「相続する」か「相続放棄する」かを決める必要があります。
もし相続放棄する場合には、相続開始を知った日から3か月以内に、家庭裁判所で相続放棄の申し立てを行わなければなりません。
申し立てを行わずに3か月を経過してしまった場合、「法定単純承認」が適用されて「相続する」ことが確定します。相続放棄をする予定の方は、速やかな申し立てが必要です。

また「法定単純承認」は、3か月放置した場合以外にも、次のような場合に自動的に適用されます。

  • 相続財産を処分した
  • 相続財産を隠した
  • 故意に相続財産目録へ一部を記載しなかった
  • 被相続人が受取人となる死亡保険金を受け取った など

不動産投資では、被相続人が経営していた投資用不動産からの賃料を相続人が受け取った場合や、入居者に対して賃料を請求した場合などには、「相続財産を処分した」とみなされて法定単純承認が適用されます。
投資用不動産の相続放棄をお考えの方は、法定単純承認が適用されないよう慎重に行動しましょう。