売却

投資用マンションの売却時、敷金は買主に引き継ぐの?

マンション

2023年7月24日

ここでは、投資用マンションの売却における敷金の引き継ぎについて解説しています。
投資用マンションのオーナーが売主から買主に代わる場合でも、原則として入居者が売主と結んでいた賃貸借契約が変更になることはありません。そのため、すでに入居者が買主へ預けている敷金は買主へ移行することになります。
ただし、中には敷金が買主へ移行しない例外的なケースや、関東と関西で敷金の取り扱いが異なるケースなどもあります。入居者のいる投資用マンションを売買する際には慎重な状況把握が必要です。

売主から買主へ敷金返還債務が継承される

入居者がいる投資用マンションを売買する場合、入居者から預かっている敷金の返還義務は、売主(前オーナー)から買主(新オーナー)へ引き継がれることになります。

原則として、入居者が売主(前オーナー)と交わした賃貸借契約は、少なくとも次の契約更新時まで変更されることはありません。売買によってオーナーチェンジとなった場合でも、買主(新オーナー)の一存で賃貸借契約の内容を変更できないということです。
もしオーナーチェンジの後で入居者が退去を申し出れば、買主(新オーナー)が敷金返還債務を負う形となります。

売買金額の調整による敷金返還債務の移行

入居者から預かっている敷金は、投資用マンションの売買決済のタイミングで売主から買主へと移行します。

買主は実質的に敷金を売主から受け取った形となるため、買主は入居者が退去する際に入居者へ敷金を返還したとしても、敷金分を持ち出したことになりません。

新オーナーは入居者の退去時に費用等に充当した敷金の余りを入居者へ返還する

入居者が退去する際に返還する敷金の額は、これまで何らかの費用に充当してきた敷金の残金のみとなります。

例えば、入居者に家賃不払いがあり敷金から一部を充当された経緯があれば、退去時に返還される敷金は「敷金から家賃の充当分を引いた額」となります。
敷金の正しい返金額を計算するためには、売主(前オーナー)から敷金の「充当履歴」を引き継ぐことが大切です。また、買主(新オーナー)が充当履歴を更新していくことも大切です。

なお、充当分が敷金の満額に達している場合には、退去時に返還される敷金はゼロになります。

売主から買主へ敷金返還債務が移行しないケース

原則として、投資用マンションの売買では敷金返還債務が売主から買主へと移行しますが、例外として移行しないケースがあります。
敷金返還義務が移行しない主なケースを3つほど見ておきましょう。

競売でオーナーが代わるケース

競売によって投資用マンションのオーナーが変更となった場合、入居者の預けた敷金は落札者に移行しないケースがあります。

競売によるオーナーチェンジで敷金が落札者に移行するかどうかのポイントは、入居者が賃貸借契約をしたタイミングです。
今住んでいる賃借人が抵当権を決定した受付日よりも前に引き渡しを受けている場合については、賃借人は抵当権の存在を知らなかったため、賃貸借契約は落札者に引き継がれます。受付日よりも後に引き渡しを受けている場合、賃貸借契約は引き継がれません。
よって、抵当権の受付日より前に引き渡しを受けている賃借人には、前オーナーから敷金を預かっていなくても敷金返還義務が生じます。

なお後者の場合、入居者の権利よりも落札者の権利が優先されることから、落札者の意向で入居者を退去させることもできます。

敷金ゼロの賃貸借契約だったケース

昨今、空室対策の一環として「敷金ゼロ」の賃貸物件が増加しています。
もし入居者が敷金ゼロの契約で入居している場合、当然ながらオーナーチェンジしても敷金が買主へ移行することはありません。

オーナーチェンジ後、買主から入居者へ敷金を預けるよう交渉することは可能ですが、一般的に交渉成立は困難でしょう。

償却により返還されないケース

物件によって、「敷金」ではなく「保証金」という名目で入居者から預かるお金があります。実務的な目的は敷金も保証金も同じですが、保証金の場合、退去時に「償却」される例が少なくありません。

保証金を償却するとは、つまり保証金を入居者へ返還しないということです。契約書に「退去時には賃料の1か月分を償却する」という内容の記載があっても、入居時に売主が1か月分の賃料を償却している場合、1か月分の賃料分を差し引いた敷金相当額が買主へ継承されます。

オーナーチェンジでの敷金移行における注意点

オーナーチェンジによる敷金移行に関し、主な注意点を3つほど確認しておきましょう。

サブリース物件をオーナーチェンジするときの敷金の所在

売買の対象となる投資用マンションがサブリース物件だった場合、売主ではなく管理会社に敷金が保管されている可能性もあります。
もし管理会社に敷金が保管されていたとしても、買主が同じ管理会社とのサブリース契約を継続するのでしたら、敷金に関する問題は生じません。一方で、買主が管理会社を変更する予定であれば、前管理会社は売主に敷金を返還する必要が生じます。

投資用マンションは、敷金を売主が保管していると思い込んでいるケースが多くあります。しかし、実際はサブリース契約を結んだ管理会社が敷金を保管していた場合もあるので、サブリース物件の売買をスムーズに行う場合には、あらかじめ敷金の所在を確認しておくことが重要です。

売買で敷金が清算されない場合

投資用マンションの売買の際、敷金を差し引いた受け渡し金額で決済する例が多く見られますが、中には敷金を差し引かずに決済する例も見られます。
関西地方で一般的に見られる売買形式(「敷金の持ち回り」と言います)で、違法というわけではありません。
敷金の持ち回りとは、買主が賃借人の地位を継承しても売主が賃借人から預かっている敷金の引き渡しを行わず、かつ売主は賃借人から預かっている敷金の返済義務が免責される、ということです。

もし敷金を差し引かない金額で売買が成立すれば、売主は入居者から預かった敷金を返還しない形となり、実質的には敷金分が売主の収益となります。この場合、売主は収益となった敷金分も不動産取得価格に追加して確定申告しなければなりません。

関東と関西で異なる敷金の取り扱い

投資用マンションを売買する際、一般に関東地方では敷金を差し引いた金額で買主に売却されます。一方で関西地方では、敷金を差し引かずに買主へ売却されることが一般的です(敷金の持ち回り)。
売主・買主・物件が関東地方のみに帰属する場合、または関西地方のみに帰属する場合には、同じ商習慣の中での取引となるため問題は起こりにくいでしょう。一方で売主・買主・物件が関東と関西にまたいでいる場合には、敷金の取り扱いに関してトラブルになることもあるため、契約前に当事者同士で丁寧に話し合うことが大切です。

オーナーチェンジとは

投資用マンションの売買における敷金の取り扱いに関連し、オーナーチェンジという言葉が頻繁に登場します。敷金に関連する基礎知識として、オーナーチェンジの概要を見ておきましょう。

オーナーチェンジの意味

オーナーチェンジとは、入居者はそのままで大家(所有者)が代わることです。

オーナーチェンジの形で投資用マンションを購入した場合には、少なくとも購入直後は入居者を探す必要がありません。はじめから当面の間の家賃収入が約束されている物件という点で、オーナーチェンジ物件は不動産投資の初心者に向いた物件と言われることもあります。
一般的に、空室の投資用マンションを購入した場合には、入居者が見つかるまで数か月の期間を要する場合があります。この間、当然ながら家賃収入は得られません。投資用マンションを購入した直後から家賃収入を得られることが、オーナーチェンジ物件を購入するメリットの1つと言えます。

オーナーチェンジの流れ

オーナーチェンジは、一般的な投資用マンションの売買と同じ流れで行われます。売主・買主ともに不動産会社と媒介契約を結び、不動産会社の仲介で売買が成立する流れです。

物件を引き渡す際には売主から買主への所有権が移転すると同時に、入居者への賃料請求権が買主へ移行。
引き渡しと決済が完了したのち、売主と買主は連名で入居者に対し「賃貸人の地位継承通知書」を送付します。

なおオーナーチェンジが行われても、入居者に大きな変化はありません。家賃の振込先が変更になる点に注意する必要はあります。

入居者は「賃借権」を根拠に同じ条件で住み続けられる

オーナーチェンジ前から物件を賃借している入居者は、オーナーチェンジ後も「賃借権」を有していることになります。

賃借権とは、賃料を支払う義務を負うとともに、建物を使用できる民法上の債権のことです。入居者には賃借権が成立している以上、オーナーチェンジで買主が新オーナーになったとしても、買主の一存で入居者を強制退去させることはできません。

敷金・礼金とは

投資用マンションの売買で頻繁に登場する「敷金」と「礼金」という用語について、改めて基本的な意味を確認しておきましょう。

敷金は有事のために預ける一時金

「敷金」とは、家主が予め預かるお金で、部屋を退去する時に、敷金から原状回復のためのクリーニング代や修繕費用が差し引かれます。また、家賃の滞納があったときには敷金が充てられる事もあります。
敷金に余剰が出た場合は借主に変換します。敷金を全額出しても原状回復工事の費用やクリーニング代に足りない場合は、もちろん追加で請求できる場合もあります。
敷金の相場は、だいたい家賃の1か月分です。原状回復については、経年劣化は借主に責任はありません。
この敷金のシステムは、主に関東地方で使われているもので、関西より西の地域では「保証金」という言葉が使われることも多いです。

礼金はオーナーへの謝礼

礼金とは、アパートやマンションを貸してくれたオーナーに対する謝礼のお金を言います。謝礼ですので、敷金とは違って返金されることはありません。
一般に礼金の金額は「家賃1か月分」とされますが、近年では空室対策を背景に、礼金無料をうたう物件も少なくありません。また、あわせて敷金も無料とする「ゼロゼロ物件」も増えています。

礼金は預り金ではなくオーナーの収益となるため、オーナーチェンジが行われても、新オーナーに礼金が引き継がれることはありません。
また、礼金は関東地方を中心に見られる習慣です。関西地方では、礼金を払う習慣がほとんど見られません。