売却

賃貸しているマンションは入居者がいる状態で売却できる?

マンション

2023年8月17日

賃借人(入居者)がいて賃貸契約更新時期がまだ先だったとしても、そのままの状態で投資用マンションを売却できます。
入居者の説得などを通じ、退去してもらって空室にしてから売却する方法もありますが、退去に関連して様々な手間やお金がかかることもあるので、状況によってはベストな方法にならないことがある点に注意しましょう。
ここでは、入居者がいるマンションの売却について、基本的な知識をご紹介しています。

入居者がいても売却は可能

投資用マンションに入居者がいる状態のままでも、その投資用マンションを売却できます。
入居者から見れば「オーナーが代わった」ということになるので、このような売買のことを「オーナーチェンジ」と言います。
旧オーナーと入居者との間で結ばれていた賃貸借契約は、そのまま新オーナーへと引き継がれます。そのため、入居者にとって何ら不利になることはありません。あえて挙げれば、家賃の振込先を変更するための手間がかかることでしょう。
オーナーチェンジは、入居者に不利益となる取引ではないことから、売買の前に入居者から承諾を得ておく必要はありません。売買が成立後、事後的に入居者へオーナーが変更されたことを伝えれば良いとされています。

入居者がいる投資用マンションの売却パターン

入居者がいる投資用マンションの売却パターンには、オーナーチェンジの他にも、「入居者に退去してもらってから売却する」というパターンと、「入居者本人に売却する」というパターンがあります。

入居者に退去してもらってから売却する

空室の状態で売却したい何らかの理由があるのでしたら、入居者に退去してもらってから売却するしかありません。
ただし、詳しくは後述しますが、オーナーの都合のみで入居者を退去させることは法的に禁止されています。どうしても退去させたい場合には、立ち退き料を支払うなどの対応が必要になるでしょう。

入居者本人に売却する

入居者本人に売却するというパターンもあります。
入居者が転勤族、または学生の場合には購入してくれる可能性がほとんどありませんが、今まで長く住み続けている入居者で今後も転居する理由がない方でしたら、購入を前向きに検討してくれるかもしれません。
もし入居者が購入してくれることになれば、オーナーは買主を探す必要もなければ、不動産仲介手数料を支払う必要もありません。

売却のために入居者を強制退去させることはできない

オーナーチェンジではなく、空室にしてから売却したいという希望だったとしても、オーナーの都合のみで入居者を強制的に退去させることはできません。
法律では、借りる側の権利を保護するという考え方が根底にあります。この考え方を覆して入居者を退去させるためには、退去させるべき正当な事由が必要となります。「売却して別の投資用マンションを運営したい」というオーナーの希望は、正当な事由には当たらないため入居者を退去させることはできません。
ただし、賃貸借契約を解除できる1つの方法として「定期借家契約」があります。

定期借家契約なら賃貸借契約を終了することができる

賃貸借契約には、大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。
普通借家契約とは、契約更新期間を定めた借家契約のことです。一般的には2年に設定されている例が多いようですが、この更新期間が到来した際、借主が継続して入居を希望すれば、オーナーが正当な理由がなく拒絶しても引き続き契約は終了できません。
一方、定期借家契約とは、借家契約期間をあらかじめ設定した上で、契約更新に関する規定を定めていない借家契約のことです。
この場合、当初設定した借家契約期間が到来すれば、借主は退去しなくてはなりません。

どうしても退去してほしい場合

普通借家契約であるにもかかわらず、どうしても契約期間中に入居者に退去してほしい事情があるならば、オーナーから入居者に「立ち退き料」を支払うことで、退去してもらえる可能性があります。
立ち退き料とは、入居者が引越しのために要する費用、強制的に退去させたことへの慰謝料などを加算したお金のことです。相場があるわけではありませんが、概ね転居先の家賃の8~10か月分と言われることもあります。

空室で売却した場合との比較

オーナーチェンジで売却した場合と空室にしてから売却した場合を比べ、どちらがオーナーにとって有利な結果となるかはケースバイケースです。お持ちの投資用マンションを売却する際には、不動産会社に具体的なシミュレーションを行ってもらい判断しましょう。
以下では、オーナーチェンジで売却した場合と空室で売却した場合について、一般的に言われているメリット・デメリットを見ておきましょう。

オーナーチェンジで売却した場合のメリット

買主から見た場合、すでに入居者がいる投資用マンションをオーナーチェンジで購入すれば、購入してすぐに家賃収入が入ることになります。
入居者募集の活動をする必要もなければ、入居者が決まるまでの間、持ち出しでローンを返済する必要もありません。そのような物件であれば、精神的にも安心して運用をスタートさせられるでしょう。
売主から見れば、そのようなメリットをアピールすることで、投資用マンションが売れやすくなるというメリットを得られます。

オーナーチェンジで売却した場合のデメリット

オーナーが代わったとしても、入居者が持つ借家権という権利は継続します。借家権がある以上、売主はもちろんのこと、買主も自分の一存で入居者を退去させられません。また、買主が物件を改築したり建て替えたりすることにも、借家権の関連で制限が発生します。
もとより、入居者がいる以上、買主は物件の内覧を十分にできないため、改築が必要かどうかを判断できない状態で売買契約を結ぶことになります。
これらの法的な制限や不確定要素から、相場よりもやや低めの価格になることもある点は売主のデメリットになるでしょう。

空室にしてから売却した場合のメリット

空室にすれば、売主または買主がリフォームなどできるようになります。
売主にとってみれば、リフォームをしてより高値で物件を売却できる可能性が高まるでしょう。買主にとってみれば、事前に物件を十分に内覧し、購入後に自分のイメージする部屋へとリフォームして入居者を迎えられます。
また、入居者がいる物件に比べ、売却価格が高めになる可能性がある点も、売主にとってはメリットになるでしょう(一概には言えませんが)。

空室にしてから売却した場合のデメリット

もとから空室だった物件を売却するなら問題はありませんが、入居者がいる物件を売却する場合には、入居者に立ち退き料を払うなどして退去してもらわなければなりません。そのための手間やコストは、売主にとっての大きなデメリットになるでしょう。

敷金・保証金の返金義務を負うのは買主か売主か?

賃貸借契約を結ぶ際、一般的には入居者がオーナーに対して、家賃とは別途で敷金を支払います。将来的な家賃滞納の可能性、また、物件を故意に破損させた際などの修繕費に備えた資金が敷金です。
入居者が入居中、一度も家賃を滞納せず、かつ物件の修繕等も必要のない状態で退去したのでしたら、オーナーは入居者に対して敷金を全額返金しなければなりません。また、修繕などに敷金の一部を使った場合には、敷金の残りの分を入居者へ返金する必要があります。
なお、同様の趣旨でやり取りされるお金のことを、関東では一般的に敷金と呼びますが、関西では一般的に保証金と呼んでいます。
オーナーチェンジにおける売買契約の決済では、この敷金の清算が必要となります。

敷金の返金義務は新オーナーに引き継がれる

オーナーチェンジが行われた場合、買主には家賃を受け取る権利などとあわせて、将来的に入居者へ敷金を返金する義務も引き継がれます。ただし、買主は入居者から敷金を受け取っていないため、売買当事者同士、何らかの形で敷金を清算しなければなりません。
一般的に敷金の清算は、売買代金の調整によって行われます。例えば、売主が入居者と賃貸借契約を結ぶ際に、入居者から20万円の敷金を受け取っていたとしましょう。その後、家賃の滞納が5万円あったため、敷金から5万円を充当していたとします。これによって、入居者への敷金返金義務は差し引き15万円となります。
この状態のまま売買代金3000万円でオーナーチェンジが行われた場合、この15万円を差し引いて2985万円で決済することで、敷金が買主へ引き継がれたとみなされます。
なお、敷金とあわせて入居者から礼金も支払われていた場合、オーナーチェンジにおいて金額を調整する必要はありません。礼金は賃貸借契約時点でのオーナーへのお礼が趣旨であり、将来的に入居者へ返金する義務のないお金だからです。

固定資産税の取り扱いは?

固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を所有していた者が、1年分を前払いする形で納税します(4月1日を基準にしている自治体もあります)。
そのため、年の途中で不動産を売買した場合には、売主が1年間分の固定資産税を納付している格好となるため、投資用マンションの売買においては物件の引き渡し時に精算するのが一般的です。
通常、投資用マンションの売買における固定資産税は、日割り計算によって売主・買主が平等に負担します。

通常は日割り計算で平等に清算する

例えば、固定資産税の起算日を1月1日とし、その年の6月30日に投資用マンションの売買契約がなされたとします。
この場合、1年分の固定資産税は売主に請求されます。
本来であれば7月1日から12月31日分までの固定資産税は、買主が負担するべきものでしょう。
これの不平等を調整する形で、売買物件引き渡しには、本来売主が負担すべきだった固定資産税を日割り計算し、買主から売主へと支払うことになります。
ただし、固定資産税の清算については、法律で定められた義務規定ではありません。売買当事者同士の契約に基づく行為であることも理解しておきましょう。

入居者がいるマンションを売却する際の必要書類

入居者がいるマンションの売却する際、売主が用意しておくべき主な必要書類を確認しておきましょう。

賃貸借契約書

賃貸借契約書には、個人情報や家賃、敷金、共益費などの重要な内容が記載されています。契約内容を買主へ正しく引き継ぐため、必ず買主へ賃貸借契約書を提供しなければなりません。

管理委託契約書

物件の管理を管理会社へ委託している場合には、管理委託契約書も用意しておきます。管理内容や管理料などが記載された重要な書類です。

リフォーム・修繕の履歴が分かる書類

入居者がいる物件の場合、買主は物件の内覧を十分にできません。買主が安心して売買契約を結べるよう、部屋の画像とあわせ、過去に行ったリフォーム・修繕の履歴を提示しておくべきでしょう。

【まとめ】どのような売却法が有利かはケースバイケース

入居者がいる状態のまま投資用マンションを売却するオーナーチェンジは、さほど珍しいケースではありません。何らかの特別な事情がない限り、特にトラブルなく売却できるでしょう。
一方で、初めから空室の投資用マンションを売却することにも特に問題はありませんが、入居者を退去させてから売却することになると法的・金銭的に揉めるケースもありうるため、慎重に手続きを進めなければなりません。
物件をどのような状態にして売却すれば有利になるかは、ケースバイケースです。売却を検討中の方は、まずは不動産会社に相談し、専門家から適切なアドバイスを受けるようおすすめします。