不動産投資のリスク

不動産売買における契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いも解説

2023年10月25日

2020年4月から施行されている契約不適合責任。買主保護の観点から、かつて瑕疵担保責任と呼ばれた法的概念を拡充したものが契約不適合責任です。

不動産売買に大きな影響のある規定なので、売主・買主ともに、売買契約の際には十分に確認しておきたい部分となります。

ここでは、契約不適合責任の概要、契約不適合責任を根拠に買主が請求できる権利、瑕疵担保責任と契約不適合責任の主な違いについて解説しています。

契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、2017年5月に改正されて2020年4月から施行されている民法規定の概念。かつては「瑕疵担保責任」と呼ばれていた規定ですが、契約との適合性に移り、契約に適合した目的物が引き渡しされていない時、買主は売主に責任を追求できます。
契約不適合責任の概要を確認しましょう。

「買う約束をした物と現物が違う!」という買主側の主張を保護する規定

売買契約を締結する前に買主が知らされていた内容と、実際に購入した対象物の内容が異なる場合、買主にとって納得できる買い物にはなりません。買主は売主に対し、改めて契約通りの状態にするよう求めたり、契約と異なる部分の減額を要求したりすることでしょう。

それらの要求に売主が応じてくれない場合、買主はさかのぼって契約の解除を求めるかもしれません。

このように、代金と引き換えに引き渡された対象物が当初の契約内容と異なった場合、買主を保護するために規定された法的概念が契約不適合責任。買主が泣き寝入りを余儀なくされないよう、「約束と違う!」という買主の主張をすることが契約不適合責任規定の目的となります。
買主は目的物の種類や品質に関する契約不適合を知ってから1年以内に売主に通知しなければなりません。

「雨漏りはしない、とは書いていない!」という売主の主張に対して

買主が購入した物件で、引き渡し早々に雨漏りが発生したことについて、買主から売主へ契約不適合責任を根拠に修繕するよう伝えたとしましょう。これに対して売主が「契約書には、雨漏りはしないとは書いていない」と主張し、修繕は自己負担で行うよう買主に求めたとします。

このような事態において、契約不適合責任では売主に修繕義務があると判断します。なぜならば、一般的に住宅用不動産や投資用不動産の売買では、買主は雨漏りすることを想定していません。

雨風をしのいで安定的に利用できる物件であると当然に信じ、売買契約を交わします。売主の「雨漏りはしない、とは書いていない」という理屈は、契約不適合責任では認められません。

もし、事前に売主が雨漏りすることを知っていたならば、事前に買主へ状況を説明し、双方が納得できる金額で売買契約を結ぶ事ができます。

契約不適合責任を根拠に買主が請求できる権利

契約不適合責任は、買主から売主、または買主から施工業者などに対して行う請求・主張です。不動産取引を前提に、買主が請求・主張できる4つの権利を確認してみましょう。

履行の追完請求

引き渡された物件が契約内容に適合していない場合、買主は売主に対し、契約内容に対して完全に適合する内容にしてから改めて引き渡すよう請求できます。例えば次のような請求です。

  • 契約時に聞いていなかった雨漏りする天井を修理してほしい

代金の減額請求

履行の追完請求をしたにも関わらず、売主がこの請求に応じない場合、買主は売主に対して売買代金の減額を請求できます。例えば次のような請求です。

  • 雨漏りする天井の修繕を請求したにも関わらず応じてくれないため、天井の修繕代に相当する金額を返金してほしい

損害賠償請求

履行の追完請求や代金の減額請求とあわせて、買主には、契約不適合責任を根拠にした損害賠償請求権も認められています。例えば次のような請求です。

  • 雨漏りで汚損した家具の損害を賠償してほしい

契約の解除請求

履行の追完請求を行ったにも関わらず、売主が相当の期間内に対応しなかった場合、買主は契約の解除を請求できます。

締結した契約が消滅するため、速やかに売主は買主へ代金の全額を返金しなければなりません。例えば次のような請求です。

  • 基礎部分に重大な欠陥が見つかったものの、売主は履行の追完請求に応じてくれなないので、契約そのものを解除したい

なお、軽微な契約不適合責任については、社会通念に照らして契約解除までは認められず、その他の方法により買主が救済されます。

契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い

かつて存在した瑕疵担保責任と現行の契約不適合責任を比較すると、主に次の2点において顕著な違いが認められます。

買主の救済手段の種類

  1. 民法改正前における瑕疵担保責任の規定では、買主には損害賠償請求と契約の解除請求のみが認められていました。
  2. 一方で、民法改正後における契約不適合責任の規定では、損害賠償請求と契約の解除請求のほか、履行の追加請求と代金減額請求も買主に認められています。

「隠れたる瑕疵」に関する考え方

瑕疵担保責任の適用において、買主は瑕疵の存在に対して「善意無過失」であることが要件とされていました。簡単に言えば、「契約の時に注意して見たけれど、その欠陥の存在に気づかなかった」という場合において、買主の瑕疵担保責任が認められていました。

それに対して契約不適合責任では、買主に善意無過失であることを求めていません。簡単に言えば、買主が契約の時に欠陥をしっていた場合や買主の不注意で欠陥を見落としていた場合でも、契約不適合責任が適用されます。

契約不適合責任の免除や期間短縮は可能

契約不適合責任は「任意規定」とされています。任意規定とは、買主と売主の合意によって内容を変更できる、という規定です。

買主にとっては、当初の厳格な規定のままであるほうが有利ですが、売主にとっては、なるべく責任の緩い内容に変更したほうが有利となるでしょう。
双方の利害や主張が対立しかねない部分なので、契約前に十分な話し合いを行い、互いに納得できる内容でまとめておきたいものです。

不動産売買における契約不適合責任の修正・変更については、例えば次のような内容修正が見られます。

  • 売主の契約不適合責任は免除される。ただし、売主が契約不適合を知りながら告げなかった場合や重大な過失で知らなかった場合は免責されません。
  • 売主が契約不適合責任を負う期間を短縮する
  • 代金減額請求はできない
  • 履行の追完請求を行わなくても代金減額請求できる

なお、不動産の買い取り(不動産会社が買主となって成立する売買契約)においては、一般的に売主の契約不適合責任が免除されます。また、中古物件の個人間売買においても、売主の契約不適合責任が免除となるケースも少なくありません。

【まとめ】契約前には契約不適合責任に関する十分な話し合いが必要

不動産売買において、売主は物件を引き渡した後に契約不適合責任を問われるリスクがあります。想定外の請求や支出が生じないよう、知っている限りの建物の不具合や事故状況などを正確に不動産会社へ伝えましょう。

物件の状態によっては、売買契約の際、買主と話し合って契約不適合責任の緩和を求めてみても良いでしょう。

一方で買主は、引き渡し後に想定外のトラブルが発生した場合に備え、売買契約時、契約不適合責任に関する取り決めをしっかりと確認しておきましょう。

正当な理由なく契約不適合責任の期間短縮や免除の記載があれば、納得できるまで話し合うことが大切です。