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ローンの残債があっても投資用マンションの売却はできるの?

マンション

2023年8月17日

投資用マンションからの収益が思うように得られず、ローンの返済が困難になってしまう事例が見られます。
そのような場合、投資からいったん身を引くために投資用マンションの売却を検討する方もいますが、そもそも「残債がある投資用マンションを売却できるのか?」という疑問を抱く方もいるでしょう。
ここでは、投資用マンションの任意売却に関する基礎知識をご紹介しています。
まずは金融機関に相談し返済が難しい場合、売却しても残債が残る可能性が高い場合は「任意売却」という方法もあります。

売却代金が残債を上回ればローンの一括返済ができる

ローンの残債がある投資用マンションを売却する際には、アンダーローンの状態であることが理想です。
アンダーローンとは、売却したお金でローンの残債を完済できる状態のことです。
アンダーローンの状態で投資用マンションを売却した場合、その物件を手放すことにはなりますが、ローンの返済から解放されることにもなるため、以後はローンを返済する必要がありません。
精神的にも大変軽くなるでしょう。

ただし、アンダーローンの状態にあると信じて売却してみたところ、実際には残債が残ってしまったというケースも見られます。
そのため、仮に特定の不動産会社の査定でアンダーローンと査定されたとしても、安心し過ぎないことが大切です。複数の不動産会社に査定を依頼し、それぞれを比較して判断したほうがよいでしょう。

売却代金が残債を下回れば自己資金で補って返済する必要がある

不動産会社の査定の結果、対象となる投資用マンションを売却して返済金に充てたとしても、ローンの残債が残ってしまうと判断されるケースがあります。
このような状態のことを、オーバーローンと言います。

オーバーローンの状態の場合、金融機関が設定した抵当権を外すことができないため、そのままでは投資用マンションを売却できません。
そのため、例えば売却後に残る残債を自己資金で一括返済したり、いったん保証会社に全額を返済してもらったりなど、「何らかの方法」で金融機関に抵当権を外してもらわなければ投資用マンションを売却できません。
ここにいう「何らかの方法」で抵当権を外してもらって売却する方法が、以下にご紹介する任意売却です。

オーバーローンが見込まれる場合には「任意売却」が可能

投資用マンションを売却しても残債が残る状態、つまりオーバーローンの状態が見込まれる場合には、金融機関と交渉して任意売却という方法で対象の物件を売却できます。
任意売却の意味や競売との違いについて確認しておきましょう。

任意売却とは

任意売却とは、オーバーローンの状態で金融機関に抵当権を外してもらい、一般市場から投資用マンションを売却する方法です。
抵当権を外してもらうためには、売却金と自己資金でローンを完済できる証拠を示すか、または、いったん保証会社にローンの残債を全額肩代わりしてもらうなどの方法を示さなければなりません。
なお、もし保証会社にローンの残債を全額肩代わりしてもらった場合、以後は債権者が金融機関から保証会社へと移り、債務者(投資用マンションの元・オーナー)は保証会社へ残債の返済を続けることになります。
ローンの滞納が続いているにもかかわらず任意売却を行わなければ、金融機関は対象の投資用マンションを競売にかけることになるでしょう。

競売とは

競売とは、投資用マンションのローン滞納が続いている方を対象に、裁判所の指示によって対象の投資用マンションを「強制的」に売却する手続きのことです。
債権者たる金融機関が裁判所へ競売の申立てを行うことにより、競売へ向けた流れがスタートすることになります。
競売によって投資用マンションを売却できますが、任意売却に比べると競売での売却金は低めになることが一般的です。結果として、債権者が回収できる残債が任意売却より少なくなり、また、債務者が返済すべき残債が任意売却より多くなってしまうかもしれません。競売は、債権者と債務者の双方にとって、任意売却よりも望ましい選択肢とは言えないでしょう。

ローンの滞納を続ければブラックリストに載る

ローンの返済が難しくなり、実際にローンの滞納が始まって数か月が経つと、債務者はいわゆる「ブラックリストに載る」という状態になります。
ブラックリストとは、国内に3社ある信用情報機関が取り扱う「金融事故情報」の俗称です。ブラックリストに載った場合、その金融事故情報は全国の金融機関に共有されることになります。
共有されれば、以後一定期間は新たなローンを契約できなかったり新たにクレジットカードを契約できなかったりなど、いくつかの社会的制約が生じてしまいます。
なお、ブラックリストに載る理由はローンを滞納したことであり、任意売却をしたことではありません。ただし、任意売却するということはローンを滞納したということですので、任意売却した方は結果的にブラックリストに載ってしまいます。

ローン残高は「残高証明書」で確認できる

所有する投資用物件がオーバーローンかアンダーローンかを判断するためには、ローンの残高を正確に把握する必要があります。
ローンの残高を把握する方法にはいくつかありますが、最も確実な方法は、金融機関から送付された直近の「残高証明書」を確認することです。
もし手元に残高証明書がない場合には、金融機関に連絡して再発行してもらうようにしましょう。

繰り上げ返済のメリット・デメリット

アンダーローンの状態で任意売却を行った場合、金融機関に対して売却金を支払うとともに、もし自己資金に余力があれば、残債を繰り上げ返済するのが望ましいと言えます。
以下、繰り上げ返済の種類とメリット・デメリットを見てみましょう。

繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」がある

繰り上げ返済とは、月々の返済額とは別に、ローンの一部または全部をまとめて返済することです。
一部をまとめて繰り上げ返済した場合、以後は「期間短縮型」と「返済額軽減型」のどちらかの方法で返済を続けることになります。

期間短縮型

期間短縮型とは、月々の返済額を変えずに返済期間を短縮する方法です。短縮された期間分だけ利息の支払い額が減る形になるため、総返済額を圧縮できる効果があります。

返済額軽減型

返済額軽減型とは、返済期間を変えずに月々の返済額を減らす方法です。
返済期間が変わらないことから、期間短縮型に比べると利息の軽減効果は低めですが、手元の資金には多少の余裕が生まれるため、金利上昇や修繕などの急なリスクに強いとされています。

繰り上げ返済メリット

1.総返済額を軽減できる

繰り上げ返済により、残債の元本部分が減ることになるため、総返済額を軽減できる効果があります。
期間短縮型のほうが軽減効果は高めですが、返済額軽減型でも軽減効果はあります。

2.突発的なリスクを考慮しながら元本を減らせる

少しでも金利負担を軽減するため頭金を多く設定した場合、修繕などの突発的なリスクが生じた際、手元資金では対応できないことがあります。
一方、まずは頭金を低めに設定しておき、リスク発生の可能性を考慮しながら繰り上げ返済を行えば、そのようなリスクにも対応できる可能性があるでしょう。
また、頭金と同様に元本を減らして金利負担を軽減させることもできます。

3.精神的な負担が軽くなる

期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選択したとしても、繰り上げ返済の金額に応じてローンの返済が楽になるため、多少でも債務者の精神的な負担は軽くなることでしょう。

繰り上げ返済のデメリット

1.突発的な出費に対応できなくなることもある

繰り上げ返済を行った分だけ、手元資金が減ることになります。もし繰り上げ返済後、大きな修繕などの突発的な出費が必要となった場合、対応できなくなるかもしれません。
繰り上げ返済をする際には、急な出費への対応を考慮して慎重に金額を検討する必要があります。

2.手元資金が減った分だけ信用力が下がる

金融機関が融資の審査をする際には、手元にある現金の金額(預金額)を重視します。
もし繰り上げ返済を行った場合、現金が減った分だけ金融機関の信用力が下がるため、例えば別の投資用マンションを購入するためにローンを申し込む際、審査に影響が生じる可能性もあります。

3.低金利時代には繰り上げ返済の効果が薄い

繰り上げ返済の大きなメリットは、返済元本を減らして支払い金利を圧縮することにあります。
そのため、現代のような低金利時代に繰り上げ返済を行ったとしても、期待するほどの金利圧縮効果を得られない可能性があります。

4.繰り上げ返済手数料が発生する場合もある

ローンの種類や金融機関の規定によっては、繰り上げ返済を行う際、手数料が発生する場合もあります。
金融機関から見れば、繰り上げ返済が行われると将来的に入る予定だった金利の額が減ることになり、マイナスの取引となるからです。
手数料が発生するかどうか、また、発生する場合にはいくらになるか、繰り上げ返済を行う前に金融機関で確認する必要があるでしょう。

残債がある投資用マンションの売却の流れ

ローンの残債がある状態で投資用マンションを売却する場合には、一般的に次のような流れで手続きが進んでいきます。

1.完済に必要となるお金の全額を把握する

アンダーローンとオーバーローンのどちらの状態であるかを把握するため、まずは完済に必要となるお金の全額を把握します。
完済に必要となるお金には、ローン残債の他にも、不動産仲介手数料、売買契約書に貼付する印紙税、抵当権抹消登記費用(登録免許税)、司法書士報酬などがあります。
ローン残債については、金融機関の残高証明書で正確に把握しましょう。

2.不動産会社に投資用マンションを査定してもらう

不動産会社に依頼し、投資用マンションを査定してもらいます。
不動産会社の中には、自社で契約を取り付ける目的で現実よりも高めの査定額を提示するところもあるので、査定の客観性を担保するため、1社ではなく複数の不動産会社に査定を依頼することが大事。
それぞれの不動産会社が提示した査定額を比較し、希望的観測を排除して売却価格の目安をイメージします。

3.不動産会社と媒介契約を結ぶ

信頼できる不動産会社を選び、売却に向けた媒介契約を締結します。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類がありますが、高い確率で売却を成立させたい場合には、「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」を選ぶべきでしょう。
売却可能性が最も高い契約は「専属専任媒介契約」と言われています。
なお、不動産会社に支払う料金は成功報酬制となっているため、媒介契約を結んだ時点で不動産仲介手数料が掛かることはありません。
不動産会社は売買契約成立時と物件の引き渡し時に仲介手数料を受領できるとされています。
不動産会社との取り決め次第では、物件引き渡し時に仲介手数料の全額を一括で支払うケースもあります。

4.売却・引き渡し・返済を行う

投資用マンションの購入希望者が現れたら、売却・引き渡し日を確定させた上で、その旨を金融機関へ連絡します。
連絡を受けた金融機関は、残債と金利の正確な金額を計算して債務者(投資用マンションのオーナー)へ提示。購入者への売却当日、債務者は金融機関から提示された金額、および必要な場合は繰り上げ返済額をあわせ、金融機関へと入金します。

5.抵当権抹消登記を行う

ローンを完済すると、後日、金融機関から抵当権抹消手続きに必要な書類が送られてきます。
この書類を司法書士事務所に持参すれば、司法書士が抵当権抹消登記を代行して行います(手間はかかりますが自分で手続きを行うこともできます)。
なお、抵当権は、ローンを完済すれば自動的に抹消されるものではありません。抹消するためには、自分で手続きを行う必要があります。次のオーナーに迷惑をかけないよう、速やかに手続きを行いましょう。

6.入居者にオーナーが代わったことを通知する

入居者がいる場合には、売主と買主の連名でオーナーが変更になったことを通知します。売却に関して事前に入居者へ伝える必要はなく、売却成立後に伝えれば問題ありません。
オーナーの変更に伴い家賃の振込先も変更になることから、売却が成立したら速やかに入居者へ通知します。

投資用マンションを売却するべきタイミングとは?

投資用マンションを売却するべき主なタイミングとして、次にご紹介する2点を押さえておきましょう。

大規模修繕が行われる前

投資用マンションのオーナーには、将来的な大規模修繕に備えて修繕積立金が課されますが、実際に大規模修繕が行われる時には、修繕積立金だけでは不足するケースが少なくありません。
もし不足した場合、オーナーが追加で修繕費の負担を求められることがあります。また、その金額は一戸あたり数十万円~数百万円という莫大な金額になることもあります。
実際にいくらの負担になるかは分かりませんが、急な出費リスクを避けるためには、大規模修繕が行われる前のタイミングで投資用マンションの売却を検討したほうが良いでしょう。

【まとめ】任意売却で実損を最小限に抑えられる可能性がある

投資用マンションの任意売却について、基本的な知識を網羅的にご紹介しました。

投資用マンションの運用が順調ならば、任意売却を考える必要がありません。ただし、事前の調査不足や偶発的な運などにより、運用が上手くいかずローンの返済が困難となる可能性は、決してゼロではありません。
もし投資用マンションの運用に失敗したとしても、任意売却という方法を使えば、オーナーの実損を最小限に抑えられる可能性があります。最悪の事態が訪れた場合の対処法として、記憶の片隅に残しておきましょう。