売却

賃貸中のアパートやマンションの売却には立ち退き交渉が必要?

アパート

2023年8月18日

投資用アパート・マンションの売却において、入居者に立ち退いてもらう必要はありません。
むしろ、立ち退いてもらう交渉に労力やお金が掛かる可能性もあるので、入居者がいた状態のままの売却は一般的な選択肢となります。
ここでは、入居者がいる状態で投資用マンション・アパートを売却する「オーナーチェンジ」、どうしても入居者に立ち退いてもらいた場合の対処法、入居者がいる状態のまま物件を売却するメリット・デメリットなどについて解説します。

アパート・マンションの売却で入居者に立ち退いてもらう必要はない

投資用アパート・マンションを売却に際し、入居者がいたとしても立ち退きさせる必要はありません。
入居者がいる状態のまま、問題なく投資用アパート・マンションを売却できます。

入居者がいる状態のままの売却を「オーナーチェンジ」という

入居者がいる状態のまま投資用マンションの売買を行うことを、オーナーチェンジと言います。
アパート・マンションの賃貸借において、法律では入居者保護の視点がベースにありますが、オーナーチェンジは入居者にとって「大家さんが代わる」だけであり、家賃を含めた賃貸借契約の内容も引き継がれることから入居者に大きな不利益はありません。入居者保護の趣旨に反していない取引ですので、法的に問題なくオーナーチェンジができます。

入居者を退去させるには労力とお金が掛かる可能性もある

入居者がいる状態の物件よりも空室の物件のほうが高く売れる可能性もあることから、中には、入居者を立ち退きさせてから売却したいと考えるオーナーもいるでしょう。
しかし、詳しくは後述しますが、正当な事由なくして入居者を立ち退きさせることは、簡単ではありません。交渉の労力や立ち退き料の支払いなど、オーナーは大きな負担を伴う可能性があります。
総合的なプラス・マイナスを考えれば、オーナーチェンジは妥当な選択肢と言えるでしょう。

売却をお急ぎの方は「買取」も選択肢

オーナーチェンジでの売却と立ち退きさせてからの売却、どちらを選択したとしても、売買成立までにやや長めの期間を要することは避けられません。もちろん、売り出しを始めてすぐに理想の買主が見つかる幸運もありますが、一般的には売り出しから売買契約成立まで2~3か月、もしくはそれ以上の期間が掛かると考えたほうが良いでしょう。
時間が掛かっても良いというオーナーでしたら問題ありませんが、中には、何らかの事情があって「多少値引きしてもいいから、とにかくスピード重視で売却したい」という方もいるかもしれません。そのような方には、不動産会社の「買取」という方法をおすすめします。
買取とは、不動産会社が直接買主となる売却方法のことです。一般市場に比べると売却金額が低めになることはあるものの、一般市場から買主を探す必要がなくなることから、売却成立・現金化のスピードは迅速です。
買取の主なメリットを見ておきましょう。

売却・現金化がスピーディ

一般的な売却方法(不動産会社による仲介)を選択した場合、買主を探す活動に平均2~3か月は掛かります。一方で買取を選択した場合、買主は不動産会社と確定していることから、この2~3か月という期間が省略されます。売却・現金化が極めてスピーディです。

仲介手数料が掛からない

買取の場合、不動産会社は売主と買主の仲介業務を行わず、自社が直接買主となります。仲介業務が行われない以上、売主は不動産会社に仲介手数料を支払う必要はありません。

契約不適合責任を問われない

一般的な売却方法(不動産会社による仲介)の場合、引渡し後に物件の不具合が見つかった場合、売主が契約不適合責任を問われることもあります。契約不適合責任とは、契約書に記載されている内容と引渡し後の物件の状態に違いがあった場合、売主の負担で改善を講じる法的責任です。
一方で買取を選択すると、多くの場合、売主は契約不適合責任を問われません。引渡し後、売主が知らなかった不具合が見つかったとしても、売主はその責任を問われる可能性が低いということです(念のため、契約書に契約不適合責任免除する旨が記載されているかどうかを確認するようおすすめします)。

オーナーの都合で入居者を立ち退かせることは難しい

どうしても空室にしてから売却したいと考えても、オーナーの都合(空室にしたほうが高く売れる可能性がある、など)だけで入居者を立ち退きさせることは難しいでしょう。法律には入居者保護という趣旨があることから、もし立ち退きさせるのでしたら、立ち退きさせることが妥当と考えられる「正当事由」がなければなりません。

正当事由の例

立ち退きさせることが妥当と考えられる「正当事由」の例には、例えば次のようなものがあります。いずれも、実際に立ち退きさせられるかどうかはケースバイケースなので、以下の事由があったとしても「必ず立ち退きさせられる」わけではない点を理解しておきましょう。

  • 入居者の賃貸借契約違反が続いている(家賃滞納など)
  • 公共事業に伴い自治体から立ち退きを要求された
  • 建物の老朽化・損傷などを改善するため建て替えたい
  • 入居者が集合住宅の基本的ルールを守らない

これらのような正当事由なくして、オーナーの都合のみで入居者を立ち退きさせたいのでしたら、オーナーから入居者への立ち退き料の提示により、双方で妥結を目指す形となるでしょう。

定期借家契約なら立ち退きさせられる

借家契約には、普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。もし入居者と結んだ契約が定期借家契約でしたら、一定期間満了でオーナーが契約更新を拒むことで入居者を立ち退きさせられます。

定期借家契約とは

定期借家契約とは、契約期間の定めがある借家契約のことです。契約期間が満了となった場合、仮に入居者から契約更新の申し出があったとしても、オーナーの意思により契約更新を拒むことができます。オーナーが契約更新を拒めば、入居者は立ち退きしなければなりません。
ただし、オーナーが契約更新を拒むためには、最低6か月前までにその旨を入居者へ通告する必要があります。

普通借家契約とは

普通借家契約とは、一定期間(通常は2年)ごとに契約更新のタイミングが訪れる借家契約のことです。契約更新のタイミングにおいて入居者から更新の申し出があった場合、オーナーはこれを拒絶できません。拒絶するためには、原則として上記「正当事由」が必要となります(正当事由がない場合には、立ち退き料の交渉となります)。

オーナーの都合で立ち退いて欲しいなら「立ち退き料」を支払う必要がある

正当事由がなく、オーナーの都合によって入居者に立ち退きして欲しいのでしたら、オーナーは入居者との交渉を経て、結果的には立ち退き料を支払う形で退去してもらうことになるでしょう。

立ち退き料の支払いが必要となる理由

入居者に立ち退きを要求するということは、言い換えれば、入居者に引越しを要求するということです。引越しには多額の出費が伴いますが、オーナーの都合で引越しを余儀なくされたにもかかわらず入居者が引越し費用を自己負担することは、道理に適っていません。
法律も入居者保護の側に立っていることから、オーナー都合で入居者に立ち退きを要求する場合には、オーナーは入居者へ当然に立ち退き料を支払うべきと解釈されます。

立ち退き料の費用の内訳・相場

立ち退き料の費用の主な内訳、相場を見てみましょう。

引越しの費用

引越し業者に支払う費用が立ち退き料の中に含まれます。荷物の量やトラックのサイズ、作業員の人数、引越し先までの距離、引越しする時期などによって費用は大きく異なります。

転居先契約の費用

転居先を契約する際に必要となる費用も、立ち退き料の一部として支払います。
具体的には敷金(家賃1~2か月分)、礼金(家賃1~2か月分)、入居初月の家賃(日割り計算)、仲介手数料(家賃1か月分+消費税)などです。

生活設備を整えるための費用

エアコンの移設や電話・インターネット回線の再設定などに料金が掛かる場合には、これも立ち退き料の一部としてオーナーが負担します。

慰謝料・迷惑料・協力金の趣旨としての費用

上記のような実費を立ち退き料として支払うことは当然です。加えて、そもそも入居者には何の落ち度もない状況の中、それまで住み慣れた環境から離れなければなりませんので、大なり小なり精神的な負担になることは間違いないでしょう。
この精神的負担などに対し、立ち退き料の中には慰謝料・迷惑料・協力金という趣旨のお金を加算することが一般的です。精神的な負担が著しく、中途半端な慰謝料では首を縦に振ってくれない入居者に対しては、オーナーは最大限の誠意を見せる必要があります。

なお、引越し先の家賃などにより立ち退き料は大きく異なるため、一般的な「費用相場」という考え方は成り立ちません。
ひとつの目安として、立ち退き料は「転居先の家賃の8~10か月分ほど」と言われることもあります。

入居者がどうしても立ち退いてくれない場合は「裁判→強制執行」

正当事由があるにもかかわらず入居者が退去してくれない場合、または、誠意ある立ち退き料を提示したにもかかわらず入居者が退去してくれない場合には、最終的な手段としてオーナーは裁判に訴えることが可能です。ただし、裁判に訴えても、必ずしもオーナーの主張が全面的に認められるとは限らない点は理解しておく必要があります。
以下、裁判を通じて入居者を立ち退きさせる流れを見てみましょう。

①建物明渡請求訴訟の提起

建物の所在地を管轄する地方裁判所に対し、土地建物明渡請求訴訟を提起します(訴額が140万円以下の場合には簡易裁判所でも構いません)。

②裁判

裁判の当日、原告(オーナー)と被告(入居者)が出廷し、立ち退きの和解に向けた話し合いを行います。話し合いで和解に至らない場合には、裁判所が下した判決に従うことになります。
なお、裁判当日に被告(入居者)が出廷しなかった場合、原告(オーナー)の主張が全面的に認められることとなります。

③立ち退き・強制執行

判決によって立ち退きが決まった場合、入居者は裁判所が指定する期日までに立ち退きすることになります。
もし期日までに入居者が立ち退きしなかった場合、オーナーは裁判所へ強制執行の申立てを行います。申立てから2週間ほどで裁判所から入居者へ催告が行われ、その約1か月後に強制執行となります。
強制執行の当日は、担当者がスペアキーで部屋を開け、荷物などを部屋の外に出した上で鍵を交換します。入居者が入室できない状態にして強制執行が終了します。

入居者がいる状態での売却と空室での売却のメリット・デメリットを比較

入居者がいる状態のままの売却(オーナーチェンジ)と、空室にしてからの売却を比べた場合、どちらが有利になるかという確定的な結論はありません。個別の状況により、オーナーチェンジのほうが有利になることもあれば、空室での売却のほうが有利になることもあります。
どちらを選択すべきか迷っている方は不動産会社に相談すべきですが、相談前に、まずはそれぞれの選択肢の一般的なメリット・デメリットを理解しておきましょう。

入居者がいる状態のまま売るメリット

入居者に立ち退きしてもらうための手間・お金が掛からない

入居者がいる状態のまま売却すれば、入居者を立ち退きさせるための手間や費用が掛かりません。
正当な事由なくしてオーナーの都合のみで入居者を立ち退きさせるためには、交渉の手間や時間、高額な立ち退き料の用意などが必要です。これら時間的・精神的な負担なく売却できることは、入居者がいる状態のまま売る大きなメリットになるでしょう。

売却活動中でも家賃収入が途絶えない

入居者がいる状態であれば、売却活動中でも家賃収入が途絶えることはありません。
もし入居者を立ち退きさせて空室にした場合、売却活動中の家賃収入がゼロになるため、ローンの返済は自己負担で行うことになります。売却活動に要する期間は平均2~3か月と言われますが、実際に2~3か月で買主が現れる保証はどこにもありません。

入居者がいる状態のまま売るデメリット

空室物件より売れにくくなることがある

入居者がいる状態なので、入居者の対応次第では、購入希望者が十分に内覧できない可能性もあります。十分に内覧できなければ、購入希望者は不確定要素を抱えたまま購入を検討せざるを得ません。結果として、十分に内覧できる空室物件に比べると、入居者のいる物件は売却までに多少長めの時間が掛かることもあります。

空室物件より価格が安くなることもある

内覧不十分により不確定要素を抱えたままの売買になれば、買主から値下げを要求される可能性があります。結果、空室物件よりも安い売却価格になるかもしれません。

空室で売るメリット

買主は物件を自由にリフォームできる

空室のまま売買が成立すれば、買主の意思で自由に部屋をリフォームできます。ターゲット層に響く内装にリフォームすれば、相場より高めの家賃を設定できるかもしれません。
また、売却前にリフォームすれば売り出し価格を上げられる可能性があるなど、売主にとってのメリットもあります。

実需層からのニーズにも対応できる

ワンルームなどの狭い物件は投資家からのニーズが中心となりますが、ファミリータイプの広い物件は、投資家の他に実需層からのニーズも期待できます。
実需層には内覧が必須となるため、入居者がいて十分に内覧できない物件よりも、空室の状態でしっかりと内覧できる物件のほうが、より高値で売れやすくなるでしょう。

空室で売るデメリット

売却活動中は家賃収入が途絶える

入居者がいる場合のメリットとは逆で、空室の状態では売却活動中の家賃収入を得られません。

入居中の物件より売れにくいことがある

一般的には、入居中の物件よりも空室物件のほうが売れやすいとされていますが、賃貸ニーズの少ない地方の物件などでは、逆に空室のほうが売れにくくなることもあります。
いつ入居者が入るか分からない空室物件に比べ、すでに入居者がいる物件のほうが安心だから、という理由です。

【まとめ】買取も選択肢として納得できる売却を

投資用アパート・マンションを売却する際、入居者を立ち退きさせる必要はありません。
もしオーナーの自己都合で入居者を立ち退きさせる場合には、立ち退きを要請する正当事由を提示するか、または高額な立ち退き料を支払う必要があります。なるべく手間や負担なく物件を売却したいのでしたら、入居者がいる状態のまま売却したほうがよいかもしれません。
現金化を急いでいるのでしたら「買取」という選択肢も考慮の上、オーナー様が納得できる適切な売却方法を検討してみましょう。