売却

投資用マンションの売却時に抵当権は設定されたままで大丈夫?

2023年1月12日

不動産投資ローンを利用して不動産を購入する場合、不動産に抵当権が設定されます。

ここでは、抵当権の役割や実行される場合、抵当権がついた投資用マンション・収益物件を売却する方法、売却する際のポイントや注意点などについてまとめています。

不動産をローンで購入する際に設定される「抵当権」とは?

抵当権とは、債務者がローンを返済できなかった場合に、融資した債権者(金融機関など)が不動産を担保(いわゆるカタ)として債務を返済させる権利のこと。
不動産投資ローンを利用して融資を受ける際は、購入対象の不動産に設定されることが多いでしょう。

ローンをきちんと返済していれば抵当権は特に問題にはなりません。しかし返済が長く滞ってしまうと、債権者である金融機関が抵当権を実行し、不動産は強制的に競売にかけられます。

抵当権の状況を確認する方法

所有する物件に抵当権が設定されているかは、登記簿謄本の権利部乙区で確認できます。

権利部とは、物件の権利関係の記載がある箇所。
甲区と乙区に分かれており、債権額やローンを全額返済して抵当権が抹消された場合の記載も含め、抵当権に関わる記載があるのは乙区です。ちなみに甲区では、所有権に関する情報を確認できます。

なお、登記簿謄本に記載されている債権額は、あくまで抵当権を設定した際の金額。
ローン返済を続けることで実際のローン残債は登記簿謄本の債権額よりも低くなっているので、混同しないようにしましょう。

抵当権がついたままの相続は可能

抵当権がついた不動産は相続が可能なので、収益物件を家族に遺せます。
抵当権つきの不動産を相続した人は不動産の新しい所有者になるため月々のローン返済をしなければならず、返済できなくなった場合は抵当権を実行されてしまう点も同様です。

ただ、不動産投資ローンを利用する際には一般的に団体信用生命保険(団信)に加入することが多いので、あまり問題になりません。
債務者(被相続人)が団体信用生命保険に加入している場合、亡くなったり重い障害になったりすると保険金でローンが完済され、相続した人が投資ローンを返済する必要がなくなるからです。

抵当権がついた不動産の売却

抵当権が設定された不動産を売却するには、ローンを全額返済して抵当権を抹消する必要があり、その方法は主に以下の2種類です。

  • 手持ちの資金でローンを完済して抵当権を抹消し、不動産を売却する
  • 残債を上回る金額で不動産を売却し、その代金でローンを完済して抵当権を抹消する

どちらにも、ローンを完済しなければならない点は共通しています。

ローンを完済していなければ抵当権は外せない

投資用マンションの抵当権を外すためには、ローンを完済していなければなりません。

抵当権は万が一の時に備えて銀行が設定する担保です。ローンが完済されるまでは「万が一」が起こらないとは限りません。
そのため銀行ではローンを完済しなければ抵当権を外さない、というルールを設定するのが通常です。

また、抵当権はローンを返済すると同時に自動的に消滅するものではありません。ローンの借主(または依頼を受けた司法書士)が法務局で抹消登記手続きをしなければ、抵当権は残り続けます。
一般的な不動産売買の実務においては、売却後に得た代金を残債や自腹でローンを完済し、その上で抵当権抹消登記手続きと所有権移転手続きを同日に行います。

抵当権がついた投資用マンションを売却できる「任意売却」という手法

基本的に抵当権がついている投資用マンションは売却できませんが、もし銀行などの債権者が抵当権を外すことに同意してくれれば、特に問題なく売却活動ができます。

これを「任意売却」と言いますが、任意売却をするためには、銀行などの債権者と交渉をし、了承を得た上で抵当権を外す手続き(抵当権の抹消登記)を行う必要があります。
ローンを返済できない時の選択肢になる特別な売却方法とご認識ください。

根抵当権は抵当権と異なる仕組み

根抵当権とは、継続的な取り引きの際に抵当権設定・抹消を簡略化する目的で考え出されたシステム。
抵当権と根抵当権の大きな違いは、対象となる債権が特定されているかどうかです。

抵当権の場合、対象となる債権は主に購入予定の不動産のみで、これが「対象となる債権が特定されている」という状態。ローンを完済すれば、購入した不動産に設定されている抵当権は自動的に抹消されます。

一方、根抵当権の対象となる債権は特定されていません。
特定の対象に融資が紐付いていないので、抵当権の抹消や再設定を繰り返さずに融資を受けられますが、その代わり融資を完済しても根抵当権は抹消されないのです。

抵当権は対象となる債権を完済すれば抹消が可能ですが、根抵当権は債権を完済してもそれだけでは抹消できず、当事者間の合意が必要になります。

根抵当権で用いられる「極度額」とは

融資や返済を繰り返し行う場合、借り入れや完済のたびに抵当権の設定や抹消も繰り返すことになり、手間がかかってしまいます。そこで設定するのが、取引を繰り返せる上限額である「極度額」です。

不動産の価値を基準にして極度額を算定し、その金額まで取引を繰り返せるというルールにすることで、借り入れや完済のたびに抵当権を設定・抹消する手間を省くことを可能にします。
例えば、根抵当権の極度額を1000万円に設定すると、抵当権の抹消や再設定をせずに1000万円までの借り入れを繰り返せる、ということです。

投資用マンションの抵当権抹消登録手続きについて

ローンを完済して通常通り売却する場合でも、債権者と交渉して任意売却を行う場合でも、法務局で抵当権の抹消登録手続きが必要になります。

「ローンを払い終えたから抵当権は自動的に消えたはず」「債権者が任意売却に同意してくれたから抵当権を外してくれているはず」と考える方もいるようですが、そうなりません。自分で、または司法書士に代行を依頼して抵当権を抹消することが必要です。

以下、投資用マンションの抵当権抹消登録手続きに関するポイントを3点ほど確認しておきましょう。

抵当権抹消登記を行わなければ買主の所有権を妨害する

投資用マンションを売却せずに所有し続ける意向であれば、ローンの完済後、たとえ抵当権の抹消登記を行っていなくても、特に問題はありません。

ただし、投資用マンションを売却する予定ならば、抵当権の抹消登記を行っておかないと買主の所有権等を妨害する形となります。
例えば、買主が購入した投資用マンションを担保にしてローンを組もうとした際、その投資用マンションに抵当権が設定されたままでは、ローンの審査に支障が生じます。

投資用マンションを売却する際には、通常売却か任意売却かにかかわらず、必ず抵当権抹消登録を行うことが必要です。

抵当権抹消登記は司法書士に依頼するのが一般的

抵当権抹消登録手続きは、投資用マンションの売主本人が行うこともできますが、一般的には司法書士に手続きの代行を依頼する形となります。

抵当権抹消登録手続きには、必要書類を揃えたり書類に必要事項を漏れなく記載したりなど、複雑な準備が必要です。
買主への物件引き渡しにはタイムリミットがあるので、書類不備などで抵当権抹消登録が遅延してしまってはなりません。専門家である司法書士に手続きを一任したほうが良いでしょう。

費用は登録免許税と司法書士報酬

抵当権抹消登録手続きにかかる主な費用は、法務局へ納付する登録免許税と司法書士へ支払う司法書士報酬になります(司法書士に手続き代行を依頼する場合)。

共同担保に入っている投資用マンション売却時の注意点

投資用マンションが共同担保に入っている場合、投資用マンションのみの抵当権を外して売却することが難しくなります。

共同担保に入っている投資用マンションの注意点について確認してみましょう。

共同担保とは

共同担保とは、1つの物件を購入する際に契約するローンに対し、その物件だけではなく別の物件も担保に入れることを言います。

「投資用マンションA」を購入する際、「投資用マンションA」と「自宅」の2つを担保に入れてローンを組むイメージです。
より多くの融資を受けたい場合などに用いられる手法です。

共同担保に入っている物件を1つだけ売ることは簡単でない

共同担保に入っている物件を1つだけ売ることに対し、多くの金融機関は難色を示します。

共同担保を契約する目的は、ローンの借主にとってみれば「融資を有利にする」ことです。
しかし、金融機関にとってみれば「売却させずに最後まで返済してもらうこと」「借り換えを抑制すること」にあります。

通常売却か任意売却かを問わず、共同担保に入っている投資用マンションを1つだけ売却する場合には、専門家の仲介による銀行との高度な交渉が必要になるでしょう。

投資用マンションを任意売却する流れ

投資用マンションを任意売却する流れを簡単に見てみましょう。

金融機関から督促状が届く

ローンの滞納が始まると、ほどなく金融機関から督促状が届きます。

督促状には、「もしこのまま滞納が続いた場合、期限の利益が失われます」との文言が記載されています。

「期限の利益」を喪失する

滞納から3か月ほど経つと、金融機関から「期限の利益」が失われた旨の文書が届きます。

「期限の利益」とは、ローンを分割で払っても良いという権利のこと。この権利が失われたということは、ローンの残債を一括返済しなければならないことを意味します。

競売開始決定通知書が届く

金融機関が保証会社に残債の一括返済(代位弁済と言います)をしてもらった後、保証会社や債権回収業者などの債権者が裁判所に競売の申し立てを実施。
申し立てを受けた裁判所から債務者に対し、競売開始決定通知書が届きます。

不動産会社に任意売却の依頼をする

競売開始決定通知書が届いた後、不動産会社に任意売却の依頼をします。ただし、任意売却の相談自体は、これ以前から行っていても問題ありません。

債権者から任意売却の許可を得る

不動産会社や弁護士などの専門家が仲介する形で、債権者と任意売却を交渉します。

債権者が任意売却に合意すれば抵当権を外すことが可能となります。

売却活動を行う

抵当権を外した上で、通常の不動産と同様の売却活動を行います。

なお、任意売却における売り出し価格の決定権は債権者にあります。
高めの売り出し価格を設定した場合、売却が成立しないうちに競売が始まる可能性もあるので、債権者との交渉が必要です。

任意売却が成立する

買主が決まったら売買契約を結び、一般的な不動産売買と同様、物件の引き渡しと代金の受け渡しを行います。

任意売却に必要な書類・費用

投資用マンションの任意売却で必要になる主な書類、および任意売却にかかる主な費用について確認してみましょう。

任意売却に必要な書類

任意売却は、不動産会社に依頼して売却活動を進める形となります。あらかじめ以下の書類を揃えておけば、任意売却に向けた流れがスムーズになるでしょう。

  • 身分証明書
  • 印鑑
  • 登記識別情報(登記済権利証)のコピー
  • (購入時の)売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 間取り図(パンフレットなどでも可)
  • 固定資産評価証明
  • 固定資産税納付書のコピー
  • 借入返済予定表
  • ローン契約時の金銭消費貸借契約書
  • ローン契約時の保証委託契約書
  • (滞納時の)督促状、競売決定通知書、差押通知書など
  • マンションの管理規約書
  • マンションの管理費・修繕積立金の明細

任意売却にかかる費用

任意売却にかかる費用の多くは、債権者の同意のもと、売却代金の中から支払われることが少なくありません。

もし債権者が売却代金からの支払いを拒んだ場合には、一般的なマンション売却と同様、次のような費用がかかります。

  • 不動産仲介手数料…売却代金×3%+6万円
  • 抵当権抹消費用(登録免許税)…1千円/件
  • 司法書士報酬…1万~1万5千円/件
  • 印紙税…売却代金に応じて異なる
  • 引っ越し代…荷物の量や移動距離による
  • 譲渡所得税・住民税…後述

譲渡所得税・住民税について

投資用マンションにおける譲渡所得税・住民税とは、売却した際に利益(課税譲渡所得)が生じた場合に、その利益に対してかかる税金です。
税率は物件の所有期間が「5年以下」か「5年超」かにより、大きく異なります。

所有期間が「5年以下」の場合は、次のような税率です。

  • 所得税:30.63%
  • 住民税:9%
  • 合計:39.63%

一方で、所有期間が「5年超」の場合は、次のような税率です。

  • 所得税:15.315%
  • 住民税:5%
  • 合計:20.315%

投資用マンションを任意売却する際に知っておきたい注意点

投資用マンションを任意売却する際の注意点を確認してみましょう。

連帯保証人や連帯債務者などの同意が必要

任意売却は、所有者本人だけの意思で行えるものではありません。

債権者の同意が必要なことはもちろんですが、もし連帯保証人・共同債務者・共同名義人が設定されていれば、それら全員からの同意が必要となります。

任意売却で残債の全額がなくなるとは限らない

任意売却で得たお金を残債の返済に充てたとしても、残債の全額がなくなるとは限りません。
一般的に任意売却の相場は、通常売却の相場に比べて低めとなります。そのため、たとえ任意売却を行ったとしても、引き続き残債が残ると考えておいたほうが良いでしょう。

残債の返済方法については、債務者(債権回収業者など)と交渉することになります。

「返済不能」であることが任意売却を行うための条件

任意売却は、ローンを返済できなくなった後に検討する手段となります。
ローンを返済できるにもかかわらず、「急に現金が必要になった」「他の物件に投資するための資金が必要になった」などの自己都合を理由に任意売却を行うことはできません。

返済が不能となり、保証会社などによる銀行への代位弁済が行われた後に任意売却を行う流れとなります。

住宅に比べて投資用マンションは任意売却が認められにくい

住宅購入の際に借りるローンは住宅ローンですが、投資用マンション購入の際に借りるローンは事業用ローンとなります。

事業用ローンの場合、債権者は任意売却を認めにくい傾向があるため、交渉する際には経験豊富なプロに依頼することが望ましいでしょう。

任意売却と競売の違い

投資用マンションのローン返済が難しくなった場合、物件を任意売却をしなければ競売されることになります。ローンの滞納を続けていると、半ば自動的に適用されてしまう手続きが競売なのです。

以下、競売の概要や任意売却と比較した際のメリット・デメリットについて確認します。

競売とは

競売とは、債権回収業者などからの申し立てに応じ、裁判所が強制的に対象不動産の売却手続きに入ることを言います。債権者がこれを拒んでも、強制的な売却手続きが進められます。

競売が成立すれば、債務者は対象不動産を明け渡さなければなりません。
また、競売から得た資金で残債を全額返済できない場合には、引き続き返済を続けることになります。

強制的に手続きが行われる

競売は債務者の意思にかかわらず、強制的に進められる売却手続きになります。

一方で任意売却は、あくまでも債務者の意思によって進める手続きです。

任意売却よりも価格が安くなる傾向がある

任意売却に比べると、競売のほうが売却価格は安くなる傾向があります。
安くなる分、残債の額は競売のほうが高くなります。

物件の引き渡し日を強制的に決められる

競売の場合、対象物件の引き渡し日が強制的に決められます。

任意売却の場合には、債務者との交渉によって物件の引き渡し日を決めます。

競売情報が公開される

競売対象となった物件の情報は、裁判所を通じてネットなどに公開されることになります。近所に知られてしまう可能性がゼロではありません。

一方で任意売却の場合は、実務上は通常の不動産売買と変わりないので、営業活動に必要となる限定的な情報しか公開されません。

今回のまとめ

抵当権とは、金融機関がローンとして融資した金額を回収するための担保(カタ)であると示すものです。

ローンをきちんと返済していれば問題はありませんが、滞納を続けた場合は最終的に金融機関によって抵当権を実行され、対象の不動産を競売で手放すことになります。
また、抵当権が設定された物件の相続や売却を検討する際には、抵当権がどのように抹消されるのか把握することがおすすめです。

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